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Milchwald 行方不明

ドイツ・ポーランド映画 (2003)

『Milchwald』は、直訳すれば、ミルクの森。内容から読み解くと、“明確なヴィジョンが不可能で、方向性が視覚的に遮断された神話的な森” を意味する。それでも、映画の内容を正確に現わしている訳ではないので、ドイツ語の仮題『Verloren』を意訳して『行方不明』とした。いつも “どの映画を紹介するか” を選ぶに当っては、冒頭部分を観てみて、展開が面白そうかどうかで選ぶことが多いが、この映画では、最初の8分で、あまりの異常事態に目を惹かれ、直ちに紹介を決めた。この映画には、嫌な登場人物がたくさん出て来る。最悪は、後妻のシルヴィア。子持ちの夫と結婚したのは、セックスのため。子供のことなんか、全くどうだっていい。だから、腹の立つ行為に遭えば、どんな非常識なことも平気でし、それでも、夫の愛を失うまいと、徹底的に嘘で隠し通そうとする、化け物のような女性だ。その次に位置するのが、長女のリア。父か死んだ母の育て方が悪かったのか、持って生まれた性格なのか、自分勝手で、根性が曲がった、可愛らしさゼロの拗ねた9歳。3番目は、“救いの天使から 金稼ぎの悪魔” へと変身するポーランド人のクバ。4番目は、一見、子供思いの父親に見えるが、肉欲のためにロクデナシの女性と再婚し、子供2人に災難を振りかけたジョセフ。5番目、行為そのものは最悪だが、誰かも分からず、ストーリー上もはっきりしない、コンスタンチンのレイプ犯。良いのは7歳のコンスタンチンだけのように聞こえるが、エンドクレジットでリアに次ぐ2番目にあげられていながら、カメラは意図的にリアばかり追って、コンスタンチンを無視する。台詞も少ない。あらすじでは、彼の登場場面が少なすぎ、全部をかき集めてようやく仕上げることができた。もう少し出番が多ければ、はっきりしない筋が、もう少し明確になったのに。これは、この映画が、監督Christoph Hochhäuslerの処女作だったことが影響しているのかもしれない。

場所は、ポーランド国境に非常に近い小さな町。そこに住む一家4人。母のシルヴィアは後妻で前妻の遺した子供2人に対する愛情は微塵もない。それを知っている9歳のリアは継母を非常に嫌っている。ある日、シルヴィアは、2人の子を車に乗せて、子供たちには事前に何も言わず、夫にも内緒で、隣のポーランドまで買い物に出かける。その途中、リアの態度に腹を立てたシルヴィアは、子供たちを他人と同程度にしか思っていなかったため、無垢な7歳のコンスタンチンも一緒に車から追い出し、そのまま走り去る。しばらくして、自分の行為があとでどんな災厄を自分にもたらすかを考えて、“廃棄” 現場に戻ってみると、2人はいなくなっていた。シルヴィアは、夫から掛かってきた電話に、自分は今1人で、買い物に来ているとだけ答え、この嘘が、シルヴィアを二度と後戻りできなくする。子供2人は、辺りが暗くなるまで歩き続け、お腹が空いたので森の中で休憩していたバンの持ち主で、トイレの消毒薬の交換業者のクバに救われ、クバは翌日、2人から聞いた自宅の電話番号に何度も掛ける。しかし、夫が心配して子供を捜し回っているのに、連絡があるかもしれないと家にいるよう言われたシルヴィア、無責任にも睡眠薬を飲んで眠っていたため、電話が通じない。そこで、クバは、近くの大きな町に行き、警察に任せようとするが、2人を放っておいて自分の用事を優先する。その際見ていたTVで2人に懸賞金がかかっていることを知ったクバは、すぐに電話を掛け、今度は、帰宅していた父親が電話を取り、2人は、ポーランドで会って、子供とお金を交換することで合意する。ところが、クバが2人を残して来た場所に戻ると、待ちくたびれた2人は姿を消していた。しかも、リアとコンスタンチンは、バスでドイツまで帰ろうとして、バス・センターに行き、ふとしたことから別れ別れになってしまい、運の悪いコンスタンチンは悪者にレイプされて放り出される。翌日、何とかリアを見つけたクバは、2回目の待合場所にバンで向かうが〔1回目は、2人が消えたため、翌日、別の場所に変えた〕、運良く途中で薄汚れたコンスタンチンを見つけて拾い上げる。こんなに汚くては、交換時に変に思われるので、クバは途中のサービスエリアのトイレでコンスタンチンを全裸にして洗う。それを、夫と一緒にポーランドに来て、偶然、同じサービスエリアのレストランに来ていたシルヴィアが、トイレに行こうとして見てしまい、建物を出て卒倒する。クバは、そのまま待合場所に向かうが、途中、リアが消毒薬を水筒に入れてクバに飲ませたため、怒り心頭に達したクバは、2人をバンから追い出す。

7歳のコンスタンチン役は、レオナルト・ブロックマン(Leonard Bruckmann)。1993年生まれ。映画が2002年の撮影でも7歳ということはあり得ない。恐らくは9歳くらいなのだろうが、その割に演技が上手いとはとても言えない。この9年後に、『Die feinen Unterschiede』に主要な脇役として出演したのが、2回目で最後の映画との関連。この時は、この映画とは違い、濃い茶髪の好青年。そして、今は、もうすぐ30歳。時の経つのは早い。

あらすじ

映画の冒頭、波打っている道路の脇を2人の姉弟が歩いている(1枚目の写真)〔なぜ波打っているのだろう? 電柱のある部分に波のピークがあるようなので、関連があるのかもしれない〕〔後ろに見える町からは、かなりの距離があるように見えるが、2人はずっと歩いてきたに違いない。しかし、どうして、こんなに長い距離を2人が歩かなくてはならないのか、説明がないので分からない〕。すると、弟の靴の紐が外れたため、立ち止まって直し始める〔後にも、似たようなシーンがある。結び方が下手なのか?〕。姉はどんどん先に行くが、それと同時に遥か後方から1台の白い乗用車が近づいてくる。最初の画面の位置から姉が消えた頃、まだ靴の紐を直している弟の少し先で車が停まる。立ち上がった弟は、「リア、ママが家まで乗せてくれる」と呼びかける。弟は、助手席側の後部座席に乗り、先まで行っていた姉も戻って来て、運転席側の後部座席に乗る。姉は、乗るとすぐに、継母のシルヴィアに文句を言う。「学校まで、迎えに来てくれると思ってた」〔それにしても、なぜ学校で待っておらずに、こんな長距離歩いたのだろう?〕。「でも。遅れちゃったの。買い物に行って、そこで食べましょ」。「一人で行けないの?」。「それは無理ね。服を選ぶには、あなたが その場にいないと」。「でも、行きたくない」。「リア、約束したじゃない」。「パパとね」。「議論はしたくない。シートベルト締めなさい」。あとからはっきりするが、リアはすごく我儘な娘。それに対し、弟のコンスタンチンは、乗った時から ちゃんとシートベルトをするし、継母のことを「ママ」と呼ぶような "良い子”(2枚目の写真)。リアは、「私、行かない」と言うと、いきなり、走行中にドアを開ける。シルヴィアは、「リア!」と怒鳴る〔そのあと、どちらがドアを閉めたのかは分からない〕。シルヴィアは 受動喫煙など無視して タバコを吸い始める。リアは、「タバコは止めたって、パパに言ったじゃない!」と、嘘を指摘する。それを聞いたシルヴィアは、窓だけ開け、黙って吸い続ける。再婚して突然子供が2人の母親になって以来 リアが嫌いになっていたシルヴィアは、「コンスタンチン、これ知ってる?」と言い、「アーユースリーピング」を歌い始め、途中からコンスタンチンが歌に加わる。弟がこんなに平和的なのに、姉は常に戦闘的。「あんたは、私たちのママじゃない。一緒に歌わなくていいのよ」。リアは前を向いたままだが、この言葉は、弟に言ったのだろうか? シルヴィアが歌うのを止めても、コンスタンチンは最後の節を歌う。そして、車は、ドイツとポーランドの国境に近づく(3枚目の写真)〔最初に後ろに見えていたのは、恐らくWeißwasserの町(人口2万)。ポーランド国境から7キロしか離れていない。しかし、国境を越えても、Weißwasserよりも大きな最初の町Zielona Góraまでは直線距離で国境から70キロもある〕
  
  
  

国境を越えてから5キロほど走ったところで、リアが、「遠くまで行かないって言ったじゃない」と文句を言い出す。シルヴィアは、「そんなに遠くない」と答える。それに不満を抱いたリアは、サンダルを履いた両足を運転席に押し付け、ドンドンと叩く〔運転席が揺れる〕。シルヴィアは 「今すぐ止めなさい!」と叱る(1枚目の写真、矢印はサンダル)。リアは、生意気に「今すぐ止めなさい」と、同じ言葉をシルヴィアにぶつける。シルヴィア:「止めなさい!」。リア:「止めなさい」。「大抵になさい!」。「大抵になさい」。「バカげてる!」。「バカげてる」。このバカげたくり返しに、シルヴィアは黙るしかない。すると、リアが、「おしっこに行く」と言い出す。「緊急よ、でないとパンツが濡れちゃう」。シルヴィアは、車を停め、「出なさい」と言う。しかし。リアは降りようとしない。すると、シルヴィアは、「2人とも降りて!」と命じる。2人が降りると、「ドアを閉めて!」(2枚目の写真)。リアがドアを閉めると、シルヴィアは車を勢いよく出す。リアが、「シルビア!」と叫ぶが、無視して走り去る(3枚目の写真)。リアが悪い子であることは確かなので、仕方がないといえば仕方がないが、コンスタンチンこそ、いいはた迷惑だ。シルヴィアの行為が非常識なことは言うまでもない。
  
  
  

先ほど置き去りにした場所は野原だったが、両側に森が広がっている所まで来たシルヴィアは、脇道に入って車を停める。そして、車から降りると、さっきまで吸っていたタバコを、そのまま吸い続ける(1枚目の写真)。この非道な女性が何を考えているかは分からない。ただ、後で映る夫の対応と比較すると、実の娘と息子に対する強い愛情と、継子に対する嫌悪感に近い無情との差が、明らかだ。しばらくして、シルヴィアは、もと来た道を戻り、継子を置き去りにした場所まで戻るが(2枚目の写真)、2人はどこにもいない。「リア! コンスタンチン! 出てらっしゃい。行くわよ!」と呼ぶが、返事はない。3度呼んだところで、車に置いておいた携帯に着信がある。シルヴィアは、車まで戻って電話に出る。それは 夫からだった。シルヴィアは、夫から何か訊かれたことに対し、「いいえ、何も問題ないわ。(1人で)買い物に来てるの」と、嘘を付く(3枚目の写真)。
  
  
  

場面は、相前後するが、前節の1枚目のシーンの後に、次の短い場面が挿入されている。それは、農作業の機械が近づいてきたので、2人は、危険だから、道路から脇に逸れることにしたのだ(1枚目の写真、矢印の方向に道路から出る)。道路が高さ1mほどの盛り土になっていて、2人は、道路から1段下を歩いて行く。シルヴィアが、携帯電話で嘘をついていた時には、2人は道路から離れ、野原を歩いていた(2枚目の写真)。コンスタンチンは、カエルを見つけてしゃがむと、カエルを両手の上に乗せ、姉に見せに行く(3枚目の写真)。カエルは、そのままピョンと跳ねていなくなる。コンスタンチンは、カエルを探すが、その時、急に姉が足をドンとさせる。「どうしたの?」。「やったわ」。やって来たコンスタンチンは、「殺しちゃった」と言うが、情け容赦のない姉は、「どうせ、車に轢かれるのよ」と言う。「そんなことない」。コンスタンチンが、がっかりして先に歩いて行くと、「あんたのカエルじゃなかったわ」と、変な言い訳。このキャラは、映画の最後まで、シルヴィアと同程度の嫌らしい存在だ。
  
  
  

シルヴィアは、買い物をあきらめ、ドイツの家に戻る(1枚目の写真)。そして、夫にはタバコを止めたと嘘を付いたので、キッチンのレンジフードの真下でタバコを吸う。すると、玄関で音がしたので、「ジョセフ」と言うと、すぐに換気扇のスイッチを切り、タバコに水をかける。シルヴィアは、子供部屋にいる夫の所に行く。夫は、「子供たちは、まだ帰って来ないのか?」と尋ねる。「いいえ」。夫はシルヴィアにキスし、その瞬間、シルヴィアがタバコを吸っていたことに気付く。この、“何を考えているのか分からない女性” は、急に、「愛し合いたい」と言い出す。夫は、シルヴィアのキスの激しさに、「君が、またタバコを始めたことも気付かなかった」と、“ちゃんと分かってるぞ” と注意し、シルヴィアは、顔を離して、「歯を磨いてくるわ」と言う。そして、ベッドシーン(2枚目の写真)。シルヴィアのいう魔性の女。継子が2人、パスポートもなしに行方不明になっているというのに、それを誤魔化すためにセックスに走る。何という破廉恥な女性だろう。事が済んだ後、シルヴィアは、「ジョセフ、私…」と、何か言いかける。「何だ?」。シルヴィアは、白状しようとしたのかもしれないが、急に黙ってしまう。夫は、ズボンを履き、キッチンに何か飲みに行く。夫は、キッチンに置いてあった留守録のボタンを押す。「こちらグレルマン、コンスタンチンとリアの教師です。マティスさん、あなたの子供たちは、体育の授業に現われませんでした。次回は、事前に連絡して下さい」。それを聞いた夫は、「どうして欠席したんだろう?」と独り言を呟き、携帯を手に持つと、留守録に入っていたグレルマンの番号にかけてみる。「グレルマン先生、こちら、ジョセフ・マティス、リアの父です。あなたからの留守録を今聞きました」(3枚目の写真)。相手が何か言い… 「分かりません」。相手が何か言い… 「連絡します」。ここで。また独り言。「お前たち、どこにいるんだ?」。次に掛けたのは、どちらかの子の友人の母親。彼女も、2人を見てないと答えると、子供思いの父は、「探しに行く」と言い、服を着る。シルヴィア:「一緒に行きましょうか?」。夫:「電話があるかもしれないから、家にいて」。夫が、出かけてから数分して、急に思い立ったシルヴィアは、階段を駆け下りて、「ジョセフ」と言うが、ガレージが自動的に閉まるところだった。こうして、嘘を白状する機会は、完全になくなった。
  
  
  

再び道路上を歩き出した2人。姉は、自分のせいで弟に迷惑をかけたのに、弟に対して当たる。「むかつく! 顔も見たくない、この弱虫。いつもビクビクしてる。パパは発育不全だって」。「違う!」(1枚目の写真)。「靴紐も、ちゃんと結べないくせに」。「パパに告げ口ばっかり」。この辺りで、姉は道路の反対側に移る。「シルヴィアが悪いことをした時に、告げ口するだけだわ」。「他の時だって」。「あんたがベッドでお漏らしした時、パパの枕も汚したから話しただけよ」。「違う!」。「ちゃんと見てたわ」。「嘘だ!」(2枚目の写真)〔持ちたくない姉の典型〕。道路は、森の中の薄暗い所も通る(3枚目の写真)〔コンスタンチンの映る場面が少ないので〕
  
  
  

夫が捜しに出かけている間に、シルヴィアが地図を見る場面がある。彼女は、自分が2人を置き去りにした辺りに〇をつける(1枚目の写真)。2枚目の地図は、私が所有している、2006年発行(映画の3年後)のドイツの地図帳の該当部分。1枚目の写真の黄色の枠内にほぼ該当する。薄赤い太い南北の曲線がドイツとポーランドの国境。青い点線の円が、1枚目の写真で、シルヴィアが描いた想定区域の丸。この地図では、青い円の左側に屈曲した黒い線(鉄道)があるが(場所を確定するのに役立った)、現在の地図にはない〔世界中でローカル線の廃止が進んでいる〕
  
  

シルヴィアは、何のつもりか全く分からないが、そのページを破り取り、小さく折り畳んで封筒に入れて密封する。その時、玄関が開き、夫が入って来たので、封筒を急いで服の中に隠す(1枚目の写真)。夫の第一声は、「電話あったか?」。「いいえ」。「すぐに、2人の警官を送ってくれるそうだ」。それを聞いてもシルヴィアは何も言わず、夫が紙に何か書いているのに、キッチンの照明を消し、2階への階段に向かう。「どこに行くんだ?」。「服を替えようかと」。そう言うと、これから上がって行くのに、階段の照明も消す。夫は、妻の背中に向かって、「待てよ、今日、子供たちは何か言ってたか?」と訊く。「いいえ」(2枚目の写真)。足を止めてそれだけ言うと、そそくさと階段を上がって行く〔異常としか言いようがない〕。夫は、「ケンカしてなかったか?」と訊くが、返事もしない。呆れた夫は、階段を駆け上がる。シルヴィアは、寝室の自分の枕の下に、さっきの封筒を素早く隠すと、窓の方を向く〔夫に背を向ける〕。夫は、寝室の照明を点ける。シルヴィアは、急に振り返ると、「いいえ、すべて正常だったわ」と、ようやく返事をする。夫:「グレルマン先生が電話を掛けて来た時、君はどこにいた?」。「買い物よ」。そう言うと、また夫に背を向ける。「だが、留守録は聞かなかったのか?」。「留守録は、あなたのためでしょ」。その、あまりにもそっけない態度に、夫は、「子供たちが行方不明になってるのに、君は、何事もなかったように振る舞ってる。君は私の妻で、2人は、君の子供たちなんだぞ」と非難する(3枚目の写真)〔シルヴィアの冷酷さがよく分かるシーン〕
  
  
  

森の中で辺りは真っ暗になり、お腹も空いてきた。1台のバンがドアを開けて停まっている。誰もいる様子がない。そこで、リアは、「あんた、食べ物を手に入れてきなさいよ」と弟に命じる。「きっと、誰かいるよ」〔ドアが開けっ放しで、照明も点いているので、いないハズがない〕。「いないわよ」。「もし、いたら」(1枚目の写真)。「決めるのは私。だから、行きなさい」〔ひどい姉だ〕。コンスタンチンは、仕方なく車に近づいて行き、外に出してあった木のテーブルの上に置いてあった食べ物をズボンのポケットに入れる。すると、バンの後部から男〔名前はクバ〕が現れたので、卑怯なリアは、すぐに木の陰に隠れる。コンスタンチンは、気付かずに、盗みを続ける。クバは、いきなり、ポーランド語で話しかける。コンスタンチンは逃げるが すぐに捕まり、「放して。助けて、リア!」と叫ぶ。「ドイツ人か? じっとして。怖いのか?」(2枚目の写真)。そう言うと、クバは、「全部、テーブルの上に戻すんだ」と言い、コンスタンチンはポケットから盗んだものを取り出して置く。クバは、お腹が空いての盗みと分かり、横に置いてあったイスに座るよう命じる。クバは、バンに腰を降ろすと、コンスタンチンが盗んだ食パンに、盗まなかった何かを載せて、“ほら食べろ” と言わんばかりに、コンスタンチンに差し出す(3枚目の写真)。コンスタンチンは、すぐ受け取って食べ始める。そして、さっき、「助けて、リア」と叫んだことから、もう1人いると分かっているので、「怖がらずに、出て来い。食い物があるぞ」と呼びかける。それでも、姿を見せないので〔どっちが、「この弱虫。いつもビクビクしてる」なんだろう?〕、クバは、隠れている子供の名前をコンスタンチンに訊き、「リア、来いよ。仲間は、もう食べてるぞ。数分で、食い物がなくなるぞ」と言う。
  
  
  

バンは、森の中で夕食のために停まっていただけで、2人を乗せて走り始める。場面は、コンスタンチンが、「シルヴィアが突然、行っちゃったんだ」と話す場面から始まる(1枚目の写真)。「シルヴィアって? 誰なんだ」。「僕らの母さん」。リアは、「ホントの母さんじゃない」と補足する。「いつだ?」。リア:「今日の午後」。次のシーンでは、もう朝になっている。2人は、モーテルのベッドで一緒に寝ている(2枚目の写真)。皿のガチャガチャいう音で、最初に目が覚めたのはリア。弟は寝かせておき、反対側からベッドを出て、サンダルを履き、窓から外を見ると、「コンスティ〔コンスタンチンの略称〕」と呼ぶ。「起きて」。弟は、目を覚ますとベッドの上で体を起こす。「靴を履いて」。コンスタンチンは、靴を履くと紐を結び始めるが、どうせうまくいかないと思った姉が、代わりに結んでやる(3枚目の写真)〔ここだけは、姉らしい〕。2人は、ドアの並ぶモーテルの廊下を歩き、リアが扉を開けると、食堂の一角で上半身裸になった老人が、シャンプーケープだけ掛け、年配の女性が髪を切り揃えている〔経営者の夫婦?〕。2人が屋上に行くと、そこには、「restauracja(レストラン)」という文字看板の字が逆さまに映るので、レストラン付きモーテルだと分かる。
  
  
  

ここで、ドイツのシルヴィアの家。明るくなって、夫は、捜索に行って不在。シルヴィアは、窓のシャッターを下ろし、昨夜、マリオンという不明の人物に掛けた時の自分の声を聞いている。「もしもしマリオン/(相手)/そんなに良くない/(相手)/ええ、できるわ/いいわ/バイ」。そして、今度はマリオンから電話が掛かる。「また、私よ。聞いて、できれば…/(相手)/何? ええ。時間は取らないから…/(相手)/いいえ、あなたには話せないと思うわ/(相手)/いいえ、明日になっても同じ/(相手)/何て?/(相手)/ええ/(相手)/分かったわ/(相手)/いいわね/(相手)/バイ」〔両方合わせて1分30秒も使うシーンなのに、何のことやら さっぱり分からない→非常に不親切な編集〕。電話を置くと、シルヴィアは、破った地図を入れた封筒を “届いた手紙の束” の中に入れ、睡眠剤を1個だけ飲むと2階の寝室に行き、眠むってしまう(1枚目の写真)〔何という責任逃れ〕。一方、モーテルでは、クバがモーテルのトイレの消毒薬の交換をし、新しい消毒薬のビンをどこかにしまっている〔消毒薬の配達・補充係がクバの仕事〕。クバに、もう出かけるから姉を呼んで来いと言われたコンスタンチンが、リアと一緒にトイレまで行くと、「1分で終わる」と言われる(2枚目の写真)。コンスタンチンは、「家まで連れて行ってくれる?」と訊くと、クバは 「警察まで連れて行く。警察が、家まで送ってくれるさ」と言いながら、仕事を続ける。「なぜ、家まで連れて行ってくれないの?」。「金を稼がないとな」。「お金がないの?」。「もしあるんなら、こんな仕事してないさ」。ここでリアが口を出す。「どこかから、両親に電話してもらえない?」。コンスタンチンは、自分が覚えているところを見せたくて、番号を紙に書く(3枚目の写真)。その紙を見たクバは、「これ何だ?」と言い〔コンスタンチンは数字だと覚えにくいので、「(2匹のロバ)」と書いた〕。コンスタンチンは、「2匹のロバだよ」と言いながら、紙を逆さまにすると、「(73532)」と数字になっている。「賢いじゃないか。だが、市外局番がないぞ」。リアが、「03576」だと教える。
  
  
  

クバは、その番号に電話をかけるが、無責任の塊のようなシルヴィアは、睡眠薬を飲んで “御就寝中” なので、誰も出ない(1枚目の写真)。クバは、仕事の途中で、聖アンナ山(Górze Świętej Anny)の円形劇場(Amfiteatr)〔シルヴィアが置き去りにした場所の270キロ東南東なので、現実にはあり得ず、面白いロケ地だから選んだだけ〕の公衆電話からも掛けるが(2枚目の写真)、やはり通じない。子供が行方不明になった家とはとても思えないので、「2匹のロバなのか? 羊じゃないのか?」と訊く。「ううん」。「キリンとか?」。「ロバだよ」。バンに戻る時、石板で覆われた地面に1輪の白い花が咲いているのを見つけたクバは、コンスタンチンを呼び止め、「いいものを見せてやる」と言うと、花を根元から折り取り、それに細工をし、花の先端1~2センチほどが “おじぎ” するように曲げてみせ(3枚目の写真、矢印)、「花が、『はい』と言ってるんだ」と教える。「『ありがとう』は、どう言うの?」。クバは、3回、曲げながら、ポーランド語で「ありがとう(Dziękuję)」と言う。
  
  
  

2人の父は、シルヴィアが寝ている間、学校に行って、子供たちや、教師に問いかけてみたり(1・2枚目の写真)、採砂場に案内してもらったり(3枚目の写真)と必死になるが、そもそもドイツにいないので、見つかるハズがない。
  
  
  

2人がクバのバンに乗って、警察署のあるような町に向かっていると、途中で巡礼団に会う(1枚目の写真、矢印)。これは、以前紹介したポーランド映画 『Wszystko będzie dobrze(すべてうまくいくだろう)』に出てきたヤスナ・グラ修道院の黒い聖母への徒歩巡礼であろう。その際、2019年は752,000人だったと書いたが、確かに このくらいの行列でないと、そんな数値には到達しない。2枚目の写真は、町に入ったクバが、巡礼団の交通整理をしている巡査に、警察署への道を訊いているシーンだが(矢印)、そこでも、大人数の巡礼団が交差点を横切って歩いている。ただ、ここから先が、見ていて全く理解できなくなる。つまり、クバは 車内で2人に 警察署に行くと2人に言い、町に着いてからも警察署の場所を尋ねている。ところが、彼は、なぜか警察署には行かなかった。代わりに、大聖堂の脇に設けられていた仮設店舗に連れて行き、「ここで 待っててくれ」と2人に言う。「おじさんは?」(3枚目の写真)。「俺か? すぐ戻る」。そう言って、どこかに行ってしまう。ここで、場面はドイツの自宅。夫が、成果なく帰って来る。その音で、シルヴィアは目が覚める。夫が、なすすべもなく階段に座り込むと、シルヴィアは裸足で下りて来て、「それで?」と訊く。「ゼロ。2人とも、どこにもいない」。そして、「誰に責任があるのか分からんが、こんな時、どうしたらいいんだ?」と悩む。シルヴィアの返事は、実に “無関心”。「見つかるわ」の一言の後は、食事のことばかり。それを聞いた夫は、「もし、あの子たちが死んででも、君は食事を作るのか?」と批判する。シルヴィアは、急に黙り込む。

 



クバは、「すぐ戻る」と言っておきながら、愛人の家に行き、TVを見ながら、綻んだズボンを縫ってもらっている。すると、TVでは、「ザクセン州ヴァイスヴァッサーで行方不明になった2人の子供たちの行方は依然つかめておりません。9歳のリアと7歳のコンスタンチンは行方不明のままで、両親は、子供たちを見つけるのに役立つ情報の提供に1万ユーロ〔当時の換算レートで約120万円〕を提供するそうです」というドイツ語の放送が流れ、クバはそれに目が釘付けになる(1・2枚目の写真)。そして、女性に黙って大急ぎで家を出て行く。しかし、仮設店舗で延々と待たされていたリアは 待ちくたびれてイスから立ち上がって場所を離れ、コンスタンチンも姉について行く。一方、ドイツの自宅には、クバから電話がかかってくる。前と違い、夫が帰ってきて、シルヴィアも起きているので、彼女が電話を取り、夫に渡す。クバは、「報奨金のことを聞いた」と、ストレートに問題を切り出す(3枚目の写真)。「(父親)/あんたの子供たちがどこにいるか知ってる/(父親)/あんたの息子が電話番号を教えてくれた/(父親)/『2匹のロバ』だ」〔この言葉で、クバが本当に知っていることが分かる〕。「子供たちはどうしてる? 2人と話せるか?」/(クバ)/「なぜ?」/(クバ)/「ポーランドだって?」/(クバ)/「ああ」。父は、何かをメモる。「どうやって?」/(クバ)/分かった。警察は なしだな。だけど、なぜ?」/(クバ)/「心配するな、ちゃんと金は渡す。明日だな」/(クバ)/「だけど…」。ここで、クバは電話を切る。それまで冷たい彫像のように身動き一つせず聞いていたシルヴィアは、急に甘えるように夫に抱きつく。それは、行方が分かって嬉しかったのではなく、夫を肉体的に興奮させようとする魂胆によるものだったが、夫は、シルヴィアの抱擁を邪魔者のように突き放すと、妻を残してキッチンから出て行く〔2人が勝手にポーランドに行くハズはないので、妻が絡んでいると察した〕。シルヴィアは、郵便物の中に入れておいた封筒を取り出して破棄する。
  
  
  

クバは、金づるを迎えに仮設店舗のあった場所まで行くが(1枚目の写真)、そこはもう取り壊し中で、2人の姿はどこにもないし、誰も知らない。その頃、コンスタンチンは公園にある噴水池の中を見ていた(2枚目の写真)。中には2人の地元の少年たちが、巡礼が投げ込んだと思われるコインを拾っている。コンスタンチンは、ドイツまで戻るバス代を集めようと思い、裸足になって池の中に入ってコインを拾い始める。すると、縄張りがあるのか、地元の2人がコンスタンチンに襲いかかる(3枚目の写真)。すぐに、リアが中に入って来て、年上なのと、生来の負けん気で2人を追い払う。2人は、集めた大量のコインを持ってバス・センターに向かう。
  
  
  

2人は 切符売り場に行き、リアが 「ドイツまで2枚」と言い、コンスタンチンがコインを山盛りに置く(1枚目の写真、矢印)。しかし、ドイツ語は全く通じなく、売り場の女性はコインを脇にどけて、2人を去らせる〔非常に不親切だ/1989年に共産党政権が崩壊しても、その時代の “つっけんどんさ” がそのまま継承されているのか?〕。2人はそのままバス乗り場まで行く。すると、コンスタンチンの靴紐がほどけてしまったので、「ちょっと待って」と言って しゃがみ込む(2枚目の写真)。リアは、下を向いて、「バスの運転手に訊いてくる」と言って立ち去るが、コンスタンチンは靴紐に夢中で、その言葉が耳に入らない。だから、紐を結び終わって立ち上がった時、姉がいないので、びっくりする(3枚目の写真)。そして、そのまま動かずにいればいいものを、「リア!」と呼びながら。探し始める。すると、今度は、元の場所に戻って来たリアが、弟がいないので、「コンティ!」と探し始めるが。しかし、結局、別れ別れになってしまう。
  
  
  

ドイツでは、夫が、「子供たちを確保したら、電話する」と言って、氷の像のようなシルヴィアにキスして寝室を出ると、車を出そうとする。すると、リアから “置き去り” を密告され、今までの嘘と不作為がバレることを恐れたシルヴィアが飛び出して来て、「なぜ、私を置いてくの?」と勝手な難癖を付けて車に乗り込む。車の中は沈黙が支配する。その頃、コンスタンチンは真っ暗で怪しげな裏町を彷徨い歩き、一方、リアは安全な教会に入って行く。コンスタンチンは、怪しげな店を覗き、変な男に頭を撫でられる。リアは教会にいた女性に、教会内の宿泊所に連れて行かれる。コンスタンチンは、ダンボール箱が廃棄されている汚い場所に座り込み(1枚目の写真)、そこで寝てしまう。そして、朝になり、2人の父は、聖アンナ山の円形劇場に着く。誰もいないので、父は車を降りて、円形劇場の底まで降りてみるが、誰もいないことに変わりはない。そのうち、公衆電話が鳴り出す。父は、電話まで全力で走って行き、電話を取るとクバが、「マティスさん?」と訊く。「(父親)/やあ/(父親)/いや、すべて順調だ〔ここで、嘘なんかつかなければ…〕(父親)/金は持ってきたかな?(2枚目の写真)/(父親)/OK。指示に従って欲しい。国境に一番近いサービスエリアまで戻るんだ。そこで、午後6時まで待っていてくれ/私の子供たちは、元気か?/(クバ)/2人と話したい/ダメだ」〔2人を見失ったことを正直に言えないクバは、もう犯罪者に成り下がっている〕。その後、道路際で、茫然と立っているコンスタンチンが映る(3枚目の写真)〔昨夜寝たダンボールの山は、大聖堂やバス・センターのある大きな町だった。なのに、彼は、こんな辺鄙なところに、なぜ、どうやって来たのだろう? 彼は、性的虐待を受けたらしいのだが、それが、ダンボールの山の中だったのか、そこから車で連れ去られ、顔の汚れから、森の中で襲われたのかは不明/映画を観ていて、こうしたコンスタンチンの異変には気付いたが、それがレイプによるものだとは、「On the difficulties of letting the other speak: The German-Polish relationship in Christoph Hochhäusler ’s "Milchwald"(他人に話させることの困難さについて: クリストフ・ホーホホイスラー監督の映画『Milchwald』におけるドイツ・ポーランド関係)」という、EDGE(大学院生による比較文学、文化研究、歴史、映画およびメディア研究)の2011年の論文を読んではじめて納得できた〕。彼は、道路に沿って歩き始める。
  
  
  

次のシーンでは、どうやってクバが見つけたかは分からないが、教会にいるリアの部屋にやって来て、「コンスタンチンはどこだ?」と尋ねる。「知らない」。「家に連れて帰る」。リアを泊まらせた女性は反対するが、クバはいきなりリアを背負うと(1枚目の写真、矢印)、女性の文句を無視して出て行く。リアは嫌がり、階段を下りて行く途中でクバの腕に噛みつき、クバはリアを一旦放す。しかし、すぐに手をつかむと、「放してよ! 行きたくない!」というのを無視してバンまで引っ張って行く(2枚目の写真)。リアを助手席に乗せたクバは、キャンディーの入った袋を出して、「食え」と言うが、リアは、「私は、体にいいものが食べたいの」と主張する。クバが拒否すると、リアは、「なら、あんたにHされたって言うわ」と脅す。「俺が何した? この怪物めが。俺を恐喝するのか?」。「何か食べたいだけよ」。クバは、仕方なく、途中で見つけた誰もいない食堂に連れて行く。クバが、1人分の料理を取りに行っている間に、リアは、塩をテーブル中に振り撒く。皿を持って来たクバは、テーブルの上の塩を手で払い除けると(3枚目の写真)、「ここには、それしかない」と言って、皿を置く。そして、横に座ってタバコを吸い始めると、リアは 「今、食事中よ」と、喫煙を批判。クバは、テーブルの端に灰皿を移す。その時、横を店員が通りかかると、リアは素早く立ち上がって女性に後ろから抱き着き、「助けて。あの男、私を人質にしてるの!」と叫ぶ〔女性は、ドイツ語が分からない〕。クバは、すぐにリアを担ぎ上げ、ポーランド語で何事か弁解すると、テーブルに戻し、「もううんざりだ!」と怒鳴りつける。
  
  
  

リアをバンに戻して走っていると、リアが、突然、「あそこ! コンスティよ!」と叫ぶ(1枚目の写真)。コンスタンチンを通り過ぎたクバは、急停車すると、車をバックさせる。そして、バンから降りて、コンスタンチンの前まで行く。コンスタンチンの顔や肌が汚れているので、「いったいどうしたんだ?」と尋ねるが(2枚目の写真)、彼は何も言わない。そこで、取り敢えず 助手席に乗せる(3枚目の写真、顔が汚い)。リアは、さっそく、後部の荷物置き場から手で弟の肩に触り、「コンスティ」と呼びかけるが、やはり 何も言わない。そのあまりに汚い風体を見たクバは、両親に会わせる前に何とかしないと、と考える。そして、最初に見つけたサービスエリアに入る。クバはコンスタンチンを降ろした後、リアに対しては、「また、バカやらかすに違いないから」と言い、タオルだけ取ると、2人で中に入って行く。
  
  
  

ところが、そのサービスエリアのレストランには、午後6時まで時間を潰すため、2人の父とシルヴィアが入っていた。夫は何も言わずに、横を通っていったウェイトレスの動きをじっと見ている。すると、彼女が厨房に入ろうとした時、出てきたボーイと接触し、肩に近い高さで運んでいたトレイが床に落ちて 皿の割れる音が響く。それを見たシルヴィアが初めて笑顔になり、声を出さずに笑う。夫も、つられて笑い出す。子供と再会できた訳でもないのに、こうした状況が結構長く続くが、非常に不気味な雰囲気だ。すると、急にシルヴィアが立ち上がり、身を乗り出して夫に熱烈なキスをする〔これは、先に引用したEDGEによれば、夫が後妻に求めたのは肉体的快楽だけで、シルヴィアもそれを承知で、前妻の子供のことなんか100%どうでも良かったと書かれている。そういう意味では、行方不明の責任の一端は 夫にもあるのだと〕。長いキスの後、2人は見合う〔これは、お互いの立場を再認識した姿だとか〕。シルヴィアは、「すぐ戻るわ」と言い、席を立つ。そして、レストランを出てトイレに向かうと、「冷たいよ」という声が聞こえる。シルヴィアはそっと覗くと、トイレの中では、全裸にされたコンスタンチンが、冷水を掛けられ、タオルで擦られて汚れた体を拭かれている(2枚目の写真)〔“商品” を完璧な姿で持ち主に届けるためにきれいにしただけ〕。その光景にショックを受けて隠れたシルヴィアの脇を、大人のセーターを羽織ったコンスタンチンがクバと一緒に外に出て行く。シルヴィアは、夫に知らせることもせず、建物から外に出ると、自分のした “置き去り” の結果を直接目にしてようやく自分の非人間性を反省したのか、アスファルト上に崩れるように倒れる(3枚目の写真)。
  
  
  

バンは、約束の場所に向かって走っている。リアは、隣に背を向けて横になっている弟に、「コンスティ。あいつ、私たちを家になんか連れてかない。ここから出ないと」と、間違った情報を伝えようとする。しかし、コンスティは全く反応しない。リアは、「あんた変よ。なぜ、何も言わないの?」と訊き(1枚目の写真)、再度、名前を呼ぶが、それでも、反応はゼロ〔昨夜のレイプがショックだった〕。しばらくして、リアは、トイレの消毒薬の瓶から、液体が漏れているのに気付く。リアは、運転席の真後ろに置いてあったクバの水筒をこっそり取ってくると、黄色のフタを外し、それを漏れている液体の下に置く(2枚目の写真、矢印は液体の落下方向)。バンがかなり走り、ある程度液体が溜まると、リアは、それを水筒の中に流し込む(3枚目の写真、矢印)。そして、元あった場所に戻す。
  
  
  

一方、映画では、少し順序が入れ替わるが、サービスエリアでは、夫が、シルヴィアをモーテルの部屋に連れて行き、ベッドに寝かしつける。「あなたの心が離れていくみたい。でも、どこにも行かないでしょ? 私を一人にして?」。「一人にはしないよ」。「絶対?」。「絶対」。「愛してるわ。こんな幸せな時が来るなんて、思ってもいなかった」。「幸せな時じゃないよ」。「そうね」〔相変わらず、シルヴィアは自分のことしか考えていない〕。夫は、シルヴィアを残し、約束のサービスエリアまで早めに到着し、車から出て、子供たちの到着を待っている(2枚目の写真)。昼寝から覚めたシルヴィアは、「ジョセフ」と呼ぶ。「一人にはしないよ」と約束した夫がいないので、シルヴィアは、裸足のまま部屋を出ると、うつけたように、車通りの多い道路際を歩いて行く(3枚目の写真)。そして、次の瞬間には 再び舗装の上に気絶して倒れている姿が一瞬映る〔これで、映画史上、最も不愉快な登場人物の一人は、もう出て来ない〕
  
  
  

サービスエリアに向かって疾走するバンの中で、喉が渇いたクバは、右手を回して水筒をつかみ取ると、フタを外し、水筒を傾けて口に流し込む。しかし、飲み込んだ瞬間、中身に気付き(1枚目の写真)、水筒を放り出すと、急ブレーキをかける。そして、車が停まると、すぐ外に出て、飲んだものを吐き出す(2枚目の写真、矢印)。気を静めると、バックドアを開け、最後尾に積んであったポリタンクから水をゴクゴクと飲む。一連の動作が終わると、バンの中の “ポタポタと漏れている消毒薬” を触ってみて、すべてリアの悪だくみだと気付く。クバはリアを睨みつけ、“1万ユーロより、このガキを懲らしめたい” と心に決めると、「出ろ!」と命じる。リアが降ろされるのは当然だが、ここでも、最初の “置き去り” と同様、コンスタンチンも犠牲になる。2人とも、裸足のまま車から降りる(3枚目の写真)。「失せろ」。2人は、車が向かおうとしていた方向に向かって、歩き始める。このラストシーンは、2人が道のてっぺんに着き(4枚目の写真)、さらに姿が完全に消えるまで、固定されたカメラで2分30秒にわたって映し続けられる。2人は、この先、どうなるのだろう? 歩いている方向は、ドイツに近い最後のサービスエリアで、そこには父が待っている。もし、1本道がサービスエリアに通じていて、父が我慢強く待っていれば会えるかもしれない。会えなくても、国境まで歩いていけば、係官がドイツ側に連絡し、警察が迎えに来るに違いない。
  
  
  
  

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